家庭菜園をこれから始めようとする初心者にとって、ベランダはとても好都合な場所です。何と言っても栽培管理の手軽さがベランダ菜園の魅力でもあります。
けれどもベランダは、畑とちがって色んな制約を受けるものです。ベランダの環境に合わせて育てる野菜を選択しないと、なかなかうまく育てることはできません。
また集合住宅や密集した住宅地などでは、近隣への配慮もしながら育てていくことが大切です。
ここではそのような、ベランダで家庭菜園をする上で知っておきたいポイントをお伝えして、ベランダ菜園を楽しめるものにしていきたいと思います。
ベランダの家庭菜園で大切なこと
まずベランダでの家庭菜園において、チェックしておきたいことは大きく分けると以下の3つになります。
1.自然環境
家庭菜園において最も基本的で、最も重要な要素です。
それではベランダにおける自然環境で、チェックしておきたいこととはどのようなことでしょう。
1-1.日当たり
野菜を育てるものの多くは日光を必要とします。
「ベランダにどれぐらい日光が入るか」
これは何よりも先に確認しておきたいポイントです。なぜなら日の入り具合で育てられる野菜も変わってくるからです。
野菜を育てる場所にどのぐらい日が射しこむかを日照条件と言います。
この日照条件の長さによって野菜は、陽性植物、半陰性植物、陰性植物と分けられます。
このように日照時間によって栽培に適した野菜は変わっていきます。
それでは初心者が育てやすい野菜を日照条件別に分けるとどのようになるでしょうか。
主に、夏に活躍する実もの野菜は長い日照時間を必要とし、春秋の葉ものは半陰性が多いようです。
陰性植物で育てやすいものとなるとミツバ・クレソンあたりになるでしょうか。
上記を参考にして、ベランダの日照条件に合った野菜を選んで育てるとよいと思います。
1-2.風通し
自然環境でもうひとつチェックしておきたいのが風通しです。
風通しはできるだけよい方が望ましいです。なぜなら風通しの悪い場所は病害虫が発生しやすくなってしまうからです。野菜も人間と同じで適度な換気をしなければ、調子が悪くなってしまいます。
その中でも陰性植物は比較的風通しが悪くても育ちますが、それでも適度な換気は必要です。
逆に風が強く吹くような場所で育てれば、植物が損傷してしまったり土が乾きやすかったりするので、ある程度防風するような対策が必要となってくるでしょう。
2.構造環境
ベランダで家庭菜園を楽しむために、自然環境以外にもベランダの構造の観点からもチェックしておきたいところです。
それではベランダの構造でチェックしておきたいこととはどんなものがあるでしょうか。
2-1.排水溝の詰まり
集合住宅において特に注意が必要かもしれません。
ベランダに水が溜まらないように排水溝が設置されている場合は、しっかりと流れるように置き場所を考えておくことが重要です。また水やりの際に流れ出る土や肥料などが排水溝に詰まりの原因を作ってしまう場合もあります。
2-2.避難経路の確保
これも集合住宅においては頭に入れておきたい項目です。
非常口やベランダの隔て板の前に置いたりすると、有事の際には通行の邪魔になってしまいます。万が一のために、こうした場所の近くに置くことは避けるべきです。
2-3.ベランダの材質
ベランダの材質にもいろんな種類があります。木材や金属、樹脂、タイルと言ったものですね。
この材質のちがいで日光の熱をどのぐらい吸収するのか変わってきます。もし金属やコンクリートなどの熱を持ってしまう材質だと、野菜に悪影響を及ぼす可能性があります。そのためベランダの材質にもチェックはしておいた方がよいと思います。
2-4.エアコンの室外機
どの家庭においても室外機がベランダに置かれているところは多いと思います。
室外機の稼働中は温かい風が排気されます。そのためその周辺は熱が溜まりやすく、近くに置くと野菜が生育障害を起こしかねません。ですので室外機の周りに置くことも避けた方が無難です。
2-5.スペースの確保
ベランダを家庭菜園だけのために使えるのであれば問題はありませんが、多くの人にとっては洗濯物や布団を干したりする場所でもあります。
いろいろな野菜を作りたいが一心にプランターたくさん置いてしまうと、プランターを蹴り倒してしまったり、つまづいたりして怪我の原因にもなったりします。少なくとも人ひとりが通れるスペースを作っておくのが賢明です。
また野菜によっては上に伸びるものもありますので、そうした空間も意識しながら配置を心がけるとよいでしょう。
3.近隣関係
そして家庭菜園を楽しむのに盲点になりやすいのが近隣関係です。
育てる方にばかり意識が向いて、実は隣近所に迷惑をかけていたなんてことがあります。
その感じ方は人さまざまですが、気をつけなくてはなりません。
ではベランダにおいて近隣への配慮に注意しておきたいことは何があるでしょうか。
3-1.マンションやアパートの管理規約
集合住宅では複数の人たちが生活をしているので、居住者が快適に過ごせるように取り決めがあります。
たとえば、騒音だったり、タバコの煙、ペットの獣臭やアレルギーなどと言ったことです。
これに家庭菜園のことに触れている可能性もあるかもしれません。
それは先述の、排水溝の詰まりを懸念してのことや、非常口などの避難経路を塞いで居住者に迷惑がかかるというようなことです。
そのほかにも、以下のようなことも含まれてくるでしょう。
3-2.水やり
特に格子型のベランダですと、水やりの際にベランダの外へ水をまき散らす可能性があります。
それで、階下や下を歩く人などにかかったり、洗濯物などにかかってしまうことがあります。
そうしたことはトラブルに発展しかねないので注意しなければなりません。
私はその被害を受けたことがありますが、やはりいい気分はしないものです。
3-3.害虫
自然物を育てていると、害虫の発生は必ずと言っていいほどついてまわります。
育てている本人にしても問題ではありますが、近隣の人にも影響を及ぼしているかもしれません。
害虫以外にも、カラスなどの鳥が栽培中の野菜をついばんで、他の住人のベランダに居座って食べるなんてことも考えられます。
そうしたことにも十分ケアをすることを考えなければなりません。
3-4.落下のリスク
たとえば、ベランダの柵の高さを超える場所に置いたり、スペース確保のためベランダの壁掛けカゴのようなものを使ってプランターを置いたりすると、落下のリスクが高まります。
想像に難くないと思いますが、落下によって階下や下を通る人に直撃する可能性があり、非常に危険です。
そうならないような配置を考える必要があります。
3-5.臭い
有機物を使った栽培などでは、少なからず臭いは出やすくなります。
最近では、改良を重ねて臭いの少ない商品が出ていますが、そうした臭いに敏感な人もいないわけではありません。
特に無農薬栽培をする際には注意が必要になります。
ベランダ環境の改善策
さてベランダは家庭菜園の場として手軽に利用できますが、さまざまな制約が伴うことも分かっていただけたと思います。
しかし、それを理由に家庭菜園をやらないというのはもったいない。適切な対策の仕方をすれば、ベランダでも家庭菜園は十分に楽しめます。
実りのある家庭菜園をするために、どんな対策方法があるのでしょうか。
1.日当たりに関すること
日照条件は住居環境や季節によって人それぞれ違います。
また育てたい野菜や生育状況によって、日光を必要とするものもあれば、直射日光を避けた方がよい場合もあります。
こうした複合的な要素から、日当たり具合を調節していく必要に迫られるかもしれません。
日当たりを調節する対策としてはどのようなものがあるでしょうか。
1-1.遮光ネットで光を弱める
日光が強く射しこみ過ぎて野菜に悪影響を及ぼしそうな場合は、遮光ネットを張って光を弱める方法があります。
直射日光を避けた明るい場所での生育をする状況で、必要な対応策となるでしょう。
1-2.棚などを使って嵩上げをする
ベランダが格子型の場合はプランターを直置きしても日光は入りやすいですが、完全に壁になって射しこまない場合は、日光の当たる高さまで棚などを使って嵩上げするといいです。
ただし、棚がぐらついたり、ベランダの内外にプランターなどが落下したりしないように、しっかりと取り付けることが肝要です。
1-3.鏡で日光を取り込む
日光が射しこまなくて困る場合の対応策として、鏡の反射を利用して取りこむという方法もあります。
しかし、この方法はあまり改善策としての期待値は高くありません。
反射した光には、一応日光としての役割を持っていますが、本来持つ光の強さと熱エネルギーが失われます。鏡の純度が高ければそのエネルギーは保持されますが、それでも少なからず弱くはなります。
どうにか日光を取り込みたいという苦肉の策ではありますが、日照時間をもう少し確保したいというのであれば、効果はゼロではないと思います。
2.風通しに関すること
風通しも日照条件と同じで、居住環境によってさまざまであると思います。
風が入らない場所、風が強く吹きこんでしまう場所。それぞれどういった対策があるのでしょうか。
2-1.送風機を使う
風通しが悪い場所では送風機を使うことで、その役割を果たすことができます。
弱風を送り込めば対策としては十分かと思います。
ただし、送風機から出る音が大きいと騒音にもなりますので、そこは注意しなければなりません。
2-2.防風ネットで対策をする
逆に風が強く吹きこんでしまう場所には、防風対策をした方がよいです。
主に格子型のベランダで多いかもしれません。
対策としては農業用の防風ネットを張ると、完全に風を遮らずによいと思います。
2-3.簡易型のビニールハウスを置く
簡易型のビニールハウスを置くのもひとつの手です。
ビニール幕が防風の役割を果たします。たいていのものにはチャックが付いていて開け閉めできますので、風を取り込みたい場合は開けておくこともできますし、便利です。
また棚がついていて高さも調節できるので、日光の当たり具合にも役立ちます。
さらには冷えこむ季節には保温の役割も果たします。一石二鳥を超えて一石三鳥。非常に使い勝手がよいのでおすすめです。
これは武田コーポレーションで販売されているビニール温室棚4段です。
私は日光に当てるための高さが欲しかったのと、寒くなる季節だったので気温を確保したくて購入しました。
こちらは材質が軽く、持ち運びに苦労しませんでした。広いベランダだと強風で倒れてしまうかもしれませんので、固定するか重い材質の方がよいかもしれません。
3.スペースの確保に関すること
ベランダの空間をうまく利用し、スムースに身動きが取れるような対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
3-1.棚を置く
ベランダでいくつも栽培しようとすると、地面がプランターだらけになって足場がなくなる、なんてことにもなります。
足場の確保という観点では棚でうまく空間を使って整理するといいと思います。
3-2.壁に掛ける
同じようにして空間をうまく利用する方法に壁掛けラックのようなもので、整理する方法もあります。あらかじめベランダの大きさに合わせて寸法を測っておいた方がいいでしょう。
落下のリスクがあるため、ベランダの外側に取り付けてはいけません。
4.排水溝の詰まりに関すること
特に集合住宅において、他に居住者にも迷惑がかかる懸念事項です。
主な原因としては、乾燥した土が吹き上がってベランダに散る、水やりの際にプランターの底から流れ出る水と共に土が流出する、植物の落葉、肥料などの粒子の流出などが、時間とともに堆積するところです。
それではどんな対策があるのでしょうか。
4-1.排水溝の口にネットを張る
上記のようなあらゆる原因の対応策として、排水溝の口に目の細かいネットを張る方法があります。
4-2.プランターの底にトレイを敷く
プランターの底にもうひとつトレイなどの受け皿をかませれば、流れ出る土が排水溝にまで流れずに済みます。
4-3.定期的に掃除をする
家庭菜園だけではなく、普段の生活の中で排水溝まわりは汚れていくと思います。
定期的な掃除は排水溝の詰まりの大きな改善策となります。
5.近隣とトラブルにならないために
近隣関係は良好であるのに越したことはありません。もし家庭菜園が原因でトラブルとなれば、禁止になってしまう可能性も出てきます。
家庭菜園を楽しむために、近隣への配慮はよくよくした方がよいでしょう。
主に気をつけておくべきことは以下の通りです。
5-1.水やり対策
特に格子型のベランダの場合は外に水が出ないように、プランターを移して水やりを行った方がよいと思います。もし動かすのが大変なのであれば、プランターと柵の間に薄い板やレジャーシートのようなものをかませてから水やりを行うようにしましょう。
5-2.落下対策
先述しましたが、壁掛けのラックを取り付ける場合は外側に取りつけてはいけません。必ず内側に取り付けるようにしましょう。
それ以外にもベランダの高さを超えるような場所に物を置く場合は、しっかりと固定をするか、ビニールハウスのように棚のまわりをシートで覆ってしまう方がよいです。
5-3.臭い対策
これはなるべく臭いのしないものを使うという他ありません。
土や肥料などの商品は、なるべく臭いの発生しないものを選び、植物の腐食などは放置せず、すぐに処理をしましょう。
まとめ
ポイントが細かくて多いような気もしますが、これから家庭菜園を始める初心者の人はひとつかふたつのプランターで育てるところから始めれば、それほど難しいことではありません。
まずは手軽に始めて経験を積むところから楽しんでいきましょう。